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旭化成グループの基幹システムを「SAP S/4HANA」で全面刷新。
完全性を備えたデータを迅速に取り出し、
分析・見える化のDXに活用。

構造が複雑化したERPを刷新し、データ利活用DXの活性化を目指す

 

旭化成グループは100年を超える歴史を持つ、マテリアル/住宅/ヘルスケアの3領域を手がける総合化学メーカー。2003年に、持株会社の旭化成株式会社(以下、旭化成)と7つの事業会社を中核とする事業持株会社制へと移行した。

同社は2003年の体制一新にあわせ、会計業務や工場の生産実績管理、原価計算等を担う基幹システムとしてSAP ERPを導入した。その後、2015年にSAP ERP(ECC 6.0)にバージョンアップする際には、事業別の13のインスタンスを統合し、柔軟な事業部再編や組織変更への対応が図られた。そして2018年頃より、同システムの保守期間が終了する2025年をにらみ、次期ERPの計画が動き出した。旭化成の執行役員 寺田秋夫氏(プロジェクト実施当時、IT統括部部長)は、その目標をこう語る。「まだDXという言葉は一般化していませんでしたが、グループ内では、ERPのデータを分析や見える化に活用したいという声が高まっていました。このデータ利活用への最適化を最も優先度の高い目標としました」。

そのためには、20年にわたる運用で積み上がった膨大なアドオンや周辺システムを削減し、データを整流化することが重要課題となった。

まず移行先には、長年にわたってSAP製品を利活用してきた経験からSAP S/4HANAを選定。IT統括部の鈴木明氏は導入方針について「単なるマイグレーションでは、大量のアドオンを引き継ぐことになるため、全面的につくり直すリビルド手法(グリーンフィールド)での導入を決断しました」と振り返る。

こうして2019年半ば、ERPを全面刷新する大規模プロジェクトの遂行を立案。あわせて、運用基盤も従来のデータセンターからSAPが提供するPaaSであるHEC(SAP HANA Enterprise Cloud)に移行し、新技術を取り入れやすい構造へ一新することとした。



SAP技術者不足の中、TISインテックグループの総力を結集し大規模体制を構築

 

本計画は、3年に及ぶ工期と相応する大人数の開発要員を要する大規模プロジェクトになることが見込まれた。そこで、2010年から旭化成グループのSAPインスタンス統合支援に参画し、信頼を寄せていたTISをパートナーとして指名。「当時、国内の複数企業でSAP S/4HANA移行プロジェクトが走っており、SAP技術者が枯渇している状況でした。TISには、大規模案件で培った人材調達力・マネジメント力があり、SAPの最新技術に精通している点に大いに期待しました」(IT統括部 上杉俊太氏)。

要請を受けたTISは準備段階として、TISインテックグループ内からSAP開発経験が豊富な約70名をアサインし単独の事業部を発足。所属メンバーが本プロジェクトに専念できる万全の体制を構築した。

今回、技術者調達に加えて大きな課題となったのが、2020年から社会問題化したコロナ禍における円滑なプロジェクト遂行。キックオフミーティングもオンラインで実施し、以降の情報共有はTeamsやSharePointを利用するオンライン型で進めざるを得なかった。「TIS側も、社内外の膨大な技術者とのコミュニケーションをオンライン中心で行うことで、大きな苦労があったと思います」(上杉氏)。

なお、2022年にプロジェクトがテストフェーズに入って以降は、旭化成・TISのメンバーが集まる対面型のミーティングを適宜実施。「その場で問題の原因の切り分けや解決策を話しあうスピード感のある進め方で、厳しい環境下でのスケジュール遵守を目指しました」(鈴木氏)。



約1,300本のアドオン削減などシンプルで持続可能な構造へ刷新

 

設計・開発フェーズにおいては、本プロジェクトの目標である、アドオンや周辺システムの削減が大きな挑戦テーマとなった。

あるアドオンを残す/削減する判断ルールについてIT統括部 塩月修平氏はこう説明する。「どうしても残さざるを得ないと思われるアドオンについては、旭化成内の月次のステアリングコミッティで審議し結論を出す進め方でアドオン削減を徹底しました」。そして、削減が決まったアドオンについて、TISが業務へ影響が出ないかを1本ずつ検証。移行の不安を解消しつつ、既存の約2,400本のアドオンのうち1,300本が削減された。

また、ERPへの入力データを作成するシステムや各種業務システムとERPの中間でデータ変換を行うシステムについては、SAP S/4HANAの機能で代替可能かを個々に検討。それらの機能をERPに取り込むことで、23の周辺システムの削減に成功した。

さらに、BIツールで作成したレポートが約1,400種類に膨れ上がっていた課題もあったが、TISが機能面で重複するレポートの共通化を提案。どの業務システムからデータを取得しているかを調査し、重複するレポートを共通化することで、約300種類へと削減された。

プロジェクトの終盤、2022年後半からの品質強化テストでは、TISが人的リソースを増員して、ユーザー部門が洗い出した問題点に対処。納期までに残された期間を最大限に利用して、限界まで品質向上に取り組んだ。



完全性を備えたデータを利活用するDXで脱炭素の取り組みを加速

 

こうして、まず2023年1月にSAP S/4HANAの予算系の機能を業務に利用開始。続いて􏚵月から実績系が本番稼働を始めた。「もし進捗が数週間遅れていれば、新年度の決算作業に間にあわず、業務への投入は1年先に延びていたでしょう。TISがパートナーも含めた多種多様なSAP技術者を緻密にマネジメントしてくれたことで、無事にゴールにたどりつけたと思います」(寺田氏)。

全面稼働後の1、2カ月はいくつかの障害に遭遇したが、TISの迅速な対応でほどなく収束。目標のQCD(品質・コスト・納期)の達成に成功した。「当社の社外役員からも『これほど大規模なプロジェクトをリモート中心で予定どおり完遂した事例は聞いたことがない』と高く評価いただきました」(寺田氏)。

刷新されたERPの成果を上杉氏はこう語る。「データの分析・見える化で最も重要なのは、データインテグリティ(完全性)です。以前の複雑なデータ入手経路を整流化し、アドオンによる変換も最小限とすることで、精度の高いロジスティックスから会計のデータを容易に取り出せるようになりました」。

塩月氏はデータ利活用DXの一例を次のように説明する。「当グループは、CO2排出量管理のため、製品ごとにカーボンフットプリント※を算出し取引先や消費者に開示する取り組みに注力しています。原材料とその使用量、できあがった製品数が完全性を備えたデータとして素早く入手でき、この取り組みにも大いに役立つと期待しています」。

最後に寺田氏はこう締め括る。「SAP技術者不足、コロナ禍という厳しい状況下でしたが、大規模プロジェクトを完遂でき、当社メンバーにとっても大きな自信になりました。TISとは“つくって終わり”ではなく、これからも良きビジネスパートナーとしてDXにつながる施策に協力いただければと思います」。

 

※カーボンフットプリント(CFP):

製品がライフサイクル全体で排出する温室効果ガスをCO2に換算し、取引先企業や消費者に分かりやすく表示する仕組み。



導入企業

 

旭化成株式会社


本社:東京都千代田区有楽町1-1-2 日比谷三井タワー(東京ミッドタウン日比谷)

設立:1931年

事業内容:マテリアル/住宅/ヘルスケア領域における製造販売

パートナー企業

 

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