株式上場に向けた動きの一環として、
基幹システムをSAP S/4HANAに刷新
決算早期化や経営管理高度化などが実現
株式上場に向けて業務改革に着手決算早期化と経営管理高度化を目指しERPの導入を検討
さまざまな社会課題を解決すべく、環境に配慮したソリューションを顧客に魅力的なかたちで提供することを目指し、「挑戦と創造」を続ける日本国土開発。同社はICT活用にも積極的で、「中期経営計画2024」では経営基盤の強化策にDX戦略を掲げている。この点についてサステナビリィ経営本部 デジタル戦略推進室長 兼 DX推進グループリーダーの米田清文氏は「2024年6月に行われた組織改編で、情報活用のための戦略を立案・実行するデジタル戦略推進室を新設しました。現在は、『生成AI利活用ガイドライン』を策定など、AIを活用して業務を効率化する取り組みを進めています」と説明してくれた。
振り返ると、同社は2017年ごろから株式上場に向けた業務改革に着手。ここで課題となったのが決算の早期化だった。サステナビリティ経営本部デジタル戦略推進室副室長の藤岡隆氏は「それまで決算は現場ごとに異なるルールで運用されており、主にExcelを使って人手で処理を行っていました。そのため、決算の開示までに長い時間を要し、上場企業に求められる45日以内での開示ができていなかったのです。また、決算推定での数値予測が外れることもあったため、正確な数値をタイムリーに出す必要がありました。そこで、決算の早期化と正確性の向上を実現するための仕組みを検討することにしたのです」と語る。
もうひとつの課題が、経営管理の高度化だ。従来、同社は使い勝手優先・拠点単位でExcel等のシステムを導入してきたため、経営管理に必要な情報が可視化されていなかった。また、同社が基幹システムとして長年にわたって利用してきた国産の建設業向けクラウドサービスは、建設業界の標準EDIであるCI-NETとの連携が困難だった。
「そこで、業績を迅速かつ正確に把握し、経営層が意思決定に必要な情報を提供する仕組みとして、ERPパッケージを導入。合わせて業務プロセスの標準化や間接業務の集約化も行うことにしました」(藤岡氏)
電子帳簿保存法への対応や建設業EDIとの連携を評価しSAP S/4HANAを採用
次期基幹システムについて慎重に検討を重ねた日本国土開発は、電子帳簿保存法への対応や標準機能でCI-NETと連携可能な点を評価し、SAP S/4HANAを採用。2018年6月より導入プロジェクトを開始した。インフラ基盤については、クラウドを前提に選定した結果、当時最も安定性が高く、SAP S/4HANAの稼働実績もあったAWSの採用を決めた。
このプロジェクトは、全体方針として「業務のあるべき姿の追及」と「ローコストの追及」を掲げた上で、業務に精通したユーザー部門主導型で進めることとし、業務要件に対して適合性を評価しながら業務プロセスの再設計を行った。とはいえ、全国に拠点があり、複数の事業部門を持つ同社にとって、現場への浸透には苦労があったという。
「業務変更についての説明会を実施した時期がちょうどコロナ禍にあたっていたため、現場に出向くことができずオンラインで行いました。そうしたこともあって、まずは本稼働を意識しながらプロジェクトを進め、本稼働後に現場への浸透を図っていくことにしました」(米田氏)
AWSにおけるSAP S/4HANAの導入・運用実績と技術力を評価しBeeXを新たなパートナーに選定
日本国土開発は、今回のプロジェクトを機に不要なシステムを廃止し、業務/運用/システムの各種要件に見合ったツールを利用し効率化を図ることに。システム基盤の運用・保守についても全体最適を考慮した上で集約化を進めようとしたが、プロジェクトの途中で運用体制の確立に向けた計画に課題のあることがわかり、パートナーを変更。新たなパートナーにBeeXを指名した。
「BeeXは、AWS上でのSAP S/4HANAの導入・運用について豊富な実績があり、高い技術力を持っています。これらの点を評価し、ITインフラとSAP S/4HANAのBASIS構築および、本稼働へ向けての運用設計・運用環境の準備を実施してもらうことにしました。また、SAP S/4HANAのフロントシステムである『intra-mart』とジョブ管理・インターフェース機能を担う『DataSpider』などのインフラレイヤーも含めて本稼働後の運用についてもお任せすることにしました」(藤岡氏)
2020年1月にプロジェクトに参画したBeeXは、システム環境の理解と確認、非機能要件や運用要件の調査から着手。事業年度のはじまりである2020年6月1日のサービスインが必須であったため、短期間でシステム環境の構築・整備・最適化・運用環境の準備および運用体制の確立を実施し、新システムへの移行を支援した。また、稼働後のランニングコストを最適化するための構成の再構築・最適化なども継続して行った。
さらに同社は、SAP S/4HANAの本稼働から2年後の2022年5月よりアップグレードの検討を開始。途中インボイス制度への対応などを挟みながら2024年1月に完了した。加えて、同時期に周辺システムのintra-martやEAI/ETLのDataSpiderのバージョンアップも実施している。
「このときは、intra-martやDataSpiderなど周辺環境の刷新なども実施する必要があり、新たにAWS環境を用意し移行するという方法を採ったことから、どういった方式や手順がベストかをBeeXと相談しながら進めました」(藤岡氏)
また、このアップグレードでは、これまで同じ環境にあった周辺システムの開発機と検証機を分離し、SAP S/4HANAとあわせてランドスケープの整理を行うと同時に、ネットワークの刷新なども実施している。サステナビリティ経営本部 デジタル戦略推進室情報システムグループリーダーの河村貞雄氏は「周辺システムのサーバーはBeeXの支援を受けながら移行しています。移行したサーバーの数は全部で27台でしたが、OSや周辺システムのアップグレードなども実施しながら移行するのが大変でした。このほか、ゼロトラストネットワークの実現、エンドポイントセキュリティの強化などもバージョンアッププロジェクトと並行で実施しています。BeeXにはネットワーク周りの調査など基盤刷新の分野でご協力いただきました」と語る。
決算早期化や経営管理高度化などが実現BeeXの運用・保守により安定した稼働を継続中
日本国土開発はSAP S/4HANAの導入により、経営面・業務面・システム面でそれぞれ成果を得ることができた。
「まず経営面では決算の早期化です。これまで10営業日ほどかかっていた月次決算が、20営業日ほどで確定するようになりました。また、経営層に対しても精度の高い情報を迅速に提供できるようになり、高度な経営管理が実現しました」(藤岡氏)
業務面ではCI-NETとの連携が可能になったことで、仕入先との発注データの連携が実現した。また、電子帳簿保存法への対応についても税務署の承認が完了。これにより、ペーパーレス化が進み、約1,500万円の印刷費用が削減できたという。
「発注関連の業務においても、紙の書類による承認フローがなくなり、業務が効率化しました」(米田氏)
システム面でいえば、本稼働後SAP S/4HANAは安定した稼働を続けている。また、運用・保守はBeeXに一任しているため、管理負荷も軽減された。さらに、アプリケーションのパフォーマンスについても、バージョンアップ後にシステムのレスポンスが改善されるなどの成果が出ている。
利便性の向上に向けた改修を実施業績予測や施策判断など、データ活用プロジェクトを全社的に推進
日本国土開発は今後、各部門のユーザーの声に耳を傾けながら、利便性の向上に向けた改修作業を行っていく予定だ。また、今回のプロジェクトで得られたノウハウを「建設業向けテンプレート」としてパッケージ化し、同様の悩みを抱える建設事業者に外販していく計画で、すでに複数社への提案が進んでいるという。
さらに経営面では、データ活用プロジェクトを全社的に推進し、過去の実績に基づく業績予測などに取り組んでいく考えだ。
「今回の導入の最大の成果は、各部門がSAP S/4HANAという共通のシステムを利用するようになったことです。今後はデータが溜まっていく環境を整備した上で、蓄積したデータを業績予測や施策判断などに活用していきたいと思います」(米田氏)
最後にBeeXについては、パートナーとして協創してくれる姿勢を評価しているという。
「単純に依頼へ対応するだけでなく、私たちの立場になって一緒に考え、議論していただけるBeeXには本当に感謝しています。今後もBeeXの持つ技術力には期待していますので、クラウドやAIなどに関する最新の情報提供や新たな提案をお願いします」(藤岡氏)
導入企業
日本国土開発株式会社
設立:1951年4月10日
資本金:50億1,275万円(2024年5月31日現在)
売上高:1,357億円(2023年6月1日~2024年5月31日、連結)
従業員数:1,048名(2024年5月31日現在、連結)