NRI、AWS上のRISE with SAPと
SAP Datasphereにて、
SAPデータを活用したDXを推進
ビジネスの課題:IFRSを含めた複数の会計帳簿への対応を推進
「未来創発」を理念に新たな社会価値の創造と社会課題の解決に取り組む株式会社野村総合研究所(以下NRI)。現在、長期経営ビジョン「NRI Group Vision2030」のもとで社会変革に向けた「DX3.0」を掲げ、行政サービスなどのソーシャルDX、循環エコノミーや脱炭素などのバリューチェーンDX、持続可能な社会インフラを目指すインフラDXを推進している。社内のIT戦略としてはDX3.0の方針に準じてシステムのSaaS化を推進し、社内DXの実現を目指している。
経営基盤となる財務・管理会計システムは、1990年代半ばにスクラッチで開発したシステムを強化しながら利用してきた。しかし、同社は中期経営計画の財務戦略としてグローバルスタンダードを意識した開示強化に取り組んでおり、IFRSを含めた複数会計基準への対応や制度変更への追随が求められていた。
「既存システムは、会計基準の計算から実行予算の管理まで、会計業務に必要な機能を網羅した先進的なシステムでした。しかし会計帳簿が日本基準でしか持てなかったことから、IFRSを含めた複数の会計帳簿に対応したシステムに刷新する必要がありました。また、今回の刷新に合わせて、上場企業で広く利用されているSAPを導入し、業務をシステムに合わせることで、弊社特有の業務プロセスを極力排除したかった」と語るのは、経理部 経理システム企画課長の中島功二氏だ。
ITインフラに関して従来システムはオンプレミス環境で運用されており、管理負荷の軽減が課題となっていた。そこで新システムはクラウドを前提に検討を開始。ERPシステム事業部 ERPソリューショングループ チーフエキスパートの窪田隆史氏は「NRIのDX戦略への対応、必要な分だけITリソースが利用できて短時間に調達できる柔軟性と俊敏性、常に最新技術の恩恵が受けられる鮮度維持などを考えると、クラウドの選択は必然でした」と振り返る。
ソリューション:周辺システムや業務システムとの連携を考慮してAWSを採用
新システムについては、同社の会計業務に対する適合率の高さに加え、ソリューションベンダーとして同社自身が客先への導入支援を手がけている実績などを考慮してSaaS型のSAP S/4HANA Cloud Private Edition(以下、PCE)を含むRISE with SAPの採用を決定し、併せて管理会計用のデータウェアハウス(DWH)としてデータ統合基盤のSAP Datasphereを採用した。
SAP Datasphereについては、多様なデータを1つのデータアクセス環境に統合し、エンドユーザーの利便性を担保しながら最新の技術を用いてデータ活用を高度化していく狙いがあった。経理部 経理システム企画課 エキスパートの一條岳人氏は「既存のDWHでは、さまざまな部署でエンドユーザーコンピューティング(EUC)を行っていました。今回はこれを継続することを前提にPCEと親和性の高いSAP Datasphereを採用し、BIツールとしてSaaS型のSAP Analytics Cloudを導入することにしました」と語る。
PCEとSAP Datasphereが稼働するクラウド基盤については、同社での実績を考慮してAWSを採用した。マルチクラウドインテグレーション事業本部 産業基盤サービス部 産業基盤第一グループ エキスパートテクニカルエンジニアの高野一成氏は「NRIは2010年代当初からAWSを採用しています。すでに周辺システムやその他の業務システムがAWS上で稼働していることから、連携性を考慮するとAWSがベストでした。加えて、今後の事業展開を見据えた時、AWS上でSAPおよび周辺システムの構成パターンの経験値を高めておくのが有益と判断しました」と振り返る。2020年6月より構想に着手したプロジェクトは、2023年4月にキックオフ。ビジネス設計、実現化、総合テスト・受入テスト、並行稼働のフェーズを経て2023年4月に本稼働を開始した。
PCEの導入時は業務を標準機能に合わせるFit to Standardの方針のもと、業務改革を並行して進めました。中島氏は「スクラッチからの移行ということで、業務フローの設計が最大の山場でした。コードの登録方法も変わるため、ルール設計を入念に実施しました」と説明する。DWHとBIツールについては EUCへの影響を最小限に留めるために旧来の環境を踏襲する方針とした。
ITインフラ領域では、PCEと連携する各種サーバーの環境を、NRIが独自にAWSアカウントを取得したAWS VPC上に構築した。また、NRI社内の拠点やセンターとはAWS Direct ConnectとAWS Transit Gatewayによりセキュアかつ効率的に接続している。
導入効果:経営層レベルや現場レベルで業務に応じたデータの利活用が加速
2023年4月のリリース以降、PCEとSAP Datasphereは安定して稼働している。「1、2か月程度で新システムにも慣れ、1年後には業務もこなれてきました。
2024年4月の稼働後初となる年度切り替えと組織改正も、無事に乗り切ることができました」(中島氏)
データの利活用も進み、経営層レベルや現場レベルで業務に応じた分析を行っている。
「今回、SAP Analytics Cloudで新たにダッシュボードを開発しました。これまではクロステーブルベースのデータしか提供できませんでしたが、グラフベースのビジュアル化した分析環境が提供できるようになりました。経営層や各本部の部長クラスには経営情報を可視化したダッシュボードを提供し、現場レベルには利用者の業務特性に応じたより粒度の細かい情報を提供しています」(一條氏)
NRIでは今後もBIの高度化に向けて、会計領域以外への拡大やグループ情報の分析などに着手している。
「プロジェクトにかかる工数等の労務情報や、調達関連の情報など、会計の近接領域にもBIの活用を拡げていきたいと思います。現在のところ会計情報については、NRI単体での利用となっていますので、グループの会計情報を蓄積した連結会計システムとSAP Datasphere とSAP Analytics Cloudを連携させ、グループ一体の情報が見られるようにBI環境を改修していく予定です。また、今後でてくるSAPのビジネスAIによるアナリティクス機能の進化にも期待しています」(一條氏)
さらに、NRIのIT方針に則りPCEと連携する周辺システムのSaaS化を進めていく構想で、SaaS化後にはグループへの横展開も検討している。
「連携する周辺システムの中でも大きいのが、フロントエンドで受発注を管理する業務プロセス管理システムです。現在は、スクラッチ開発のシステムを利用していますが、これらもパッケージベースに切り替えてSaaS化を進めていきます。将来的にはRISE with SAPと併せて規模の大きなグループ会社に展開することで、グループ全体の業務効率化にも貢献していきます」(中島氏)
導入企業
株式会社野村総合研究所
日本初の民間シンクタンクの「野村総合研究所」と、システムインテグレーターの草分け的存在の「野村コンピュータシステム」が、1988年1月に合併して誕生。
強固な顧客基盤のもと、コンサルティング、金融 ITソリューション、産業ITソリューション、IT基盤サービスの4領域で事業を展開する。