日本初の「SAP SFM」導入で製品単位のCFP算出を実現
中小製造業におけるDX・GX成功のロールモデルとなる
環境価値と経済価値を両立するためのプロジェクト
業務全体の生産性を上げるために2021年から「CMEs」を運用開始
「THE SUSTAINABLE FACTORY」を長期ビジョンとして掲げるマツモトプレシジョン株式会社は、2022年に工場の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うなど、サステナビリティ経営に積極的に取り組む精密機械部品加工会社だ。
同社は、業務の生産性向上を目的とし、企業価値を高めるためのDX基盤を構築するために、2021年からSAPジャパン、アクセンチュア、会津産業ネットワークフォーラムによる中小製造業向けの共通業務システムプラットフォーム「Connected Manufacturing Enterprises(以下、CMEs)」の導入準備を開始。2021年4月から実務上での運用を始めた。
「CMEs」導入の背景として、従来マツモトプレシジョンでは、生産管理システムとして「Microsoft Access」や「Microsoft Excel」を業務ごとに個別最適化して活用しており、システム間のデータ連携はなく、経営全体を把握することが難しくなっていたという。また、生産性を上げ、企業価値をさらに高めるためには、DXを推進した業務変革が急務であった。
結果として、「CMEs」および「SAP S/4HANA」で自社業務プロセスを標準化することで、決算の早期化や単品別個別原価計算が可能に。生産性を約30%向上させ、経営判断の迅速化を実現した。
個別製造実績情報をもとにした製品単位でのCFP算出が可能に
また同社は、2018年ごろから、SDGs関連の取り組みを本格的に始動させている。その一環として、製造業として現在の環境課題に対して何ができるのか、長く追求してきた。そして、その延長線上で「いずれ日本でもライフサイクル全体のCO2排出量を可視化する必要性が出てくるだろう」という問題認識が生まれ、カーボンフットプリント(以下、CFP)を可視化するための議論がより活発になっていったという。
そして2023年11月、企業および製品のCFPを一括して計算できるSAPソリューション「SAP Sustainability Footprint Management」(以下、SAP SFM)を採用。取引先に向けて製品単位でのCO2排出量の情報を提供開始した。
導入背景に関して、特に自動車関係の取引先と話し合いをする中で、以前から「CFPの可視化が必要になってくる」という要望が出ていたという。しかし、当時はまだ企業・工場単位という大枠の中でデータを算出するイメージを描くことが多く、同社でも工場単位でのCFP可視化にはすでに取り組んでいたものの、「将来的に最小単位である製品単体での算出が必要になるだろう」と松本社長は考えていた。
そこで、個別製造実績情報をもとに製品ごとのCO2排出量を計算できる「SAP SFM」の導入を決断。市場には「SAP SFM」以外にもいくつか炭素管理ソリューションが展開されているが、CFPを算出するために必要なデータの多くが「SAP S/4HANA」に集約されるため、生産性向上の観点から「『SAP SFM』以外の選択肢はありえなかった」と松本社長は振り返る。
また「SAP SFM」の導入は、マツモトプレシジョンが国内初の事例となる。そのため、導入時のハードルとして「ソリューション自体というよりも、明確なゴールがない中でスタートしているプロジェクトなので、社会課題を解決するためのツール開発に取り組むというモチベーションが必要だった」(松本社長)と語る。CFP算出の取り組みが具体的にいつから供給先のニーズとして現れるのか、現時点ではわからない。しかし、グローバルで見たときに環境課題への認識は間違いなく進んでおり、「こうした取り組みを日本の中小企業から発信することで、新たな企業価値の創造や企業間における差別化につながるのではないか」と考え、導入を決断したという。
「SAP SFM」の実際の運用に関して、現在は同社が手掛ける代表的な製品を中心に、正確なCFPデータを算出しているフェーズだ。まずは自動車産業に対して発信するため、自動車関連製品に関するCFPデータを算出。代表的な製品は大きく3つのパターンに分けられており、1つ目が国内メーカー向けの主力製品、2つ目が環境負荷削減に対して先進的に取り組んでいるEU(欧州連合)向けの製品で、3つ目が単品ではなく、社内で組み付け作業を行う必要がある工程的に複雑な製品。3つ目は「今後より本格的に取り組むためにさまざまなパターンを試したいという思いがあり、先行して算出することにした」としている。また、直近では同社が新規に取り組む製品・サービスに対してCFPレポートをつけることで、他社製品との差別化を図るプロジェクトをスタートさせようとしている。長期的な視点では「当社が生産するすべての部品にカーボンフットプリントレポートをつけるのが理想」としている。
競合他社との差別化の面で、「SAP SFM」を活用する最大のメリットは、自社製品のCO2排出量がいかに少ないか、報告書の中で明示できるようになるということだ。現代の製造業において、CFPをしっかり可視化できているかどうかは、競合他社との大きな差別化につながる。特にマツモトプレシジョンの場合は、工場の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことで、CO2排出量を大きく削減しているという事実がある。こうした取り組みや数値をレポート内でいかに示せるかは、完成品メーカーの評価を受けるうえで非常に大切なポイントになっているのだ。
一方で、原材料調達など、マツモトプレシジョンだけではCO2排出量削減に取り組めない製品も存在する。そしてこれが全体の大部分を占めており、たとえば自動車部品でいえば、約2~3万点の製品があるなかで、1つの部品のCO2削減に必死に取り組んでも大きな効果を得ることはできない。つまり、同社が「SAP SFM」を用いて先行的に取り組み、業界に対して姿勢を見せることで、サプライチェーン全体にCFP可視化の重要性を主張し、よい“連鎖”を生み出す必要があるのだ。
「個社で取り組んでも意味がない」業界全体で“連鎖”を生むために
マツモトプレシジョンへの「CMEs」および「SAP SFM」の導入・運用を支えているのは、業界屈指のコンサルティングファームであるアクセンチュア株式会社。そもそも「CMEs」のコンセプトにもなっている部分だが、基幹システムの定期的なバージョンアップやセキュリティの構築など、ITソリューションの導入・運用に対してアクセンチュアが共通サービスとして徹底的にサポートしている。アクセンチュアとの協働に関して、松本社長は「私としては、“外部エンジン”として、アクセンチュア様が弊社のDX部門を担ってくれているイメージ。継続的なパートナーシップのもと、デジタルを推進するためのコネクテッドな関係性を今後も築いていきたい」としている。
まさに中小企業におけるデジタル変革の好例を示すマツモトプレシジョンだが、日本の中小製造業が効果的にDX・GXを推進するうえでは、どういった姿勢が必要なのだろうか。
「現代社会において、環境負荷削減に対して取り組む姿勢を見せない企業は、顧客から選ばれないようになっています。つまり弊社のような中小企業は、DX・GXはもちろんのこと、今日的なテーマに真摯に向き合わないとどんどん衰退していってしまう。たとえば弊社の場合、部品サプライヤーとしての活動と環境負荷を下げる取り組みは、すでに横並びの状態です。経営者はこうした時代の変化にいち早く気づき、マインドセットを変えていかなければならないのではないでしょうか」(松本社長)
自社の環境価値と経済価値を向上させるために、そして、日本全体の競争力を高めるために、先陣を切って変革に取り組むマツモトプレシジョン。最後に、松本社長は今後の展望を語ってくれた。
「弊社は「SAP SFM」を活用し、未来に向けて実績値でのCFP可視化に取り組み始めていますが、これは業界全体で推進していかなければ意味がありません。日本全国の中小企業に対してそうした動機づけができるように、今後も率先して発信していきたいと考えています」
SAP社のWEBサイトにてマツモトプレジション様のインタビュー動画が公開中です。
SAP Sustainability Solutions | Customers
https://www.sap.com/products/sustainability/customer-stories.html
導入企業
マツモトプレシジョン株式会社
設立:1948年6月1日
資本金:7000万円
従業員数:150名(2024年4月1日現在)
事業内容:精密機械部品加工(切削加工、研削加工、熱処理)