ビジネスエンジニアリングが考察する
VUCA時代における企業間連携の「今」と近未来に向けた
サステナビリティな関係構築のために取り組むべきこと:後編
B-EN-Gが考える「少し先の未来」
VUCA時代と呼ばれる昨今、サプライヤーとの関係性はより一層重要視されています。こうした中、SAPテクノロジーを活用した企業間連携の強化を目指す企業も増え、私たちビジネスエンジニアリング(以下B-EN-G)も、ERP導入や周辺ソリューションとの組み合わせで製造業のお客様のサプライチェーン課題を解決するべく、共に取り組んでまいりました。
今回は「SAP Innovation Day」で行った講演を前後半にわけた後半として、「少し先の未来」である、欧州で始まった企業間ネットワーク「データスペース」が、日本企業に対してどのような影響を及ぼすのか、SAPジャパン Industry Advisory 古澤昌宏氏とともに考察します。
欧州で運用が始まっている「データスペース」とは
日本ではまだ馴染みの少ない「データスペース」は、Industry4.0を起源とする欧州発の分散型データ交換フレームワークです。欧州ではバッテリー規制が開始され、サプライチェーン間を横断したトレーサビリティ情報や、カーボンフットプリント情報の管理が義務化され、これに対応しなければビジネスができません。欧州はこれをきっかけにし、製造業全体にデータスペースの利用を推し進めています。
すでに自動車業界では「Catena-X」として、「企業間データ連携の標準化」と「データ提供のルール化(規制)」を実現し実用に至っており、自動車業界においてはこのCatena-Xに準拠、すなわちデータスペースへの参加が必須となっています。そして現在、自動車業界以外の製造業全体に対しても、取り組みを拡大しようという動きがあるのです。
現段階では、サステナビリティや法対応の観点が強いものの、本当の狙いは「Industry4.0の世界をデータ連携で実現すること」にあり、最終的には「将来の予測力と変化対応力の強化」を目指しています。
データスペースの歴史は2011年、Industry4.0の提唱から始まります。2019年には基本概念としてのGaia-Xが発表され、2021年にCatena-Xとして具体化されました。そして2022年には「Manufacturing-X(製造業全体を対象とするプロジェクト)」に拡張。さらにManufacturing-Xの一部として、「Factory-X(工場設備業者向けプロジェクト)」、「Aerospace-X(航空機産業向け)」が2024年からスタートすると発表され、5年間で着実な前進を続けています。
参加が必須と考えられる「Manufacturing-X」
Manufacturing-Xの目指すゴールは、サステナビリティに加え、サプライチェーンのビジネス強化と競争力強化です。ユースケースとして4つが挙げられており、「サプライチェーンの透明性」「エネルギーとCO₂管理」の2つを中心に進められています。注目すべきは将来的な「製品イノベーションコラボレーション」「生産最適化/自律型工場」の2つであり、一部はすでに標準化され、Catena-Xで実現もしています。
こうした状況に対し、企業は今後どのように対応すればよいのでしょうか。例えばすでにこれらを企業間EDIで実現している場合、そのままで良いのか、また自動車業界ではないので関係がないのではないか、といった疑問が生まれるはずです。
私たちは、データスペースへの参加は今後必須になると考えています。過去にはSAPシステムが応札の条件になっていた時代もあり、今後はデータスペースへの参加が応札条件になることも考えられるからです。またデータスペースへの参加が差別化となることも考えられます。
データスペースは、欧州ではすでに始まっています。日本企業もこの事実をしっかりと認識することが大切です。
SAP Business Networkとデータスペースの関係
ここではSAP Innovation Dayにおいて、SAPジャパン 古澤昌宏氏にデータスペースについて行った2つの質問を紹介します。
質問:ハノーバーメッセ2024において、データスペースとの連携にSAP Business Networkを活用するとお話されていましたが、この取り組みについて教えてください。
SAP 古澤氏:いま行っているのは、SAP Business Networkを強化しデータスペースとの連携を実現する取り組みです。私たちはSAP Business Network Asset Collaborationなどを活用することで、Manufacturing-Xに早期に参加できると考えており、仮にSAP Business Networkを採用できない企業でも、データスペースを利用したデータ連携を実現します。
Manufacturing-Xには11のユースケースがあり、このうち「統合ツールチェーンと共同エンジニアリング」「情報更新・変更サービス」「連携した情報物流」などの7つについては、すでに対応を始めています。例えばSAP Business Network Asset Collaborationなどで実現しているコラボレーションの一つとして、データスペースとの連携を行うのです。
残る4つの部分はすでにSAP社がプラットフォームとして提供している部分で、例えばSAP Product Lifecycle ManagementやSAP Integration Suiteが該当します。引き続き、SAP Business NetworkやSAP Business Technology Platformの適用について、検討してまいります。
データスペースに業界統一コードは必要?
質問:現在、企業間でのデータ交換は、企業間個別EDIまたは業界VANが主流となっています。データスペースにおいてサプライチェーンの下流から上流までつなげてデータを可視化する場合、複数企業をまたがる業界統一コードが必要になるのではないでしょうか?
SAP 古澤氏:まずデータスペースには、データプロバイダーとデータコンシューマーが存在し、それらが相対でプラットフォームを介さずにデータ交換を行います。一見すると企業間EDIと同じに思えますがそうではなく、データ交換には標準化されたルールがあり、EDCコネクタを介してデータを転送することが特徴です。
データの主権はデータプロバイダーにあるため、データコンシューマーに対して「このデータを利用してよい」と許可を付与し、下流までデータを伝搬させます。このとき送るデータがどのようなものであるのかは、データプロバイダーとデータコンシューマーの両者が理解できればよいのです。
つまり業界統一コードは必要ないものの、データプロバイダーとデータコンシューマーがデータをやり取りするためのサービス、Item Relationship Service(以下 IRS)が必要となります。なおIRSは、交換されるデータに対してコンテキストを追加し、データ利用者がデータを理解できるようにするサービスです。
来たるべきデータスペース時代をSAPシステムでサポートするB-EN-G
B-EN-Gは来たるべきデータスペース時代に向けて、各社がデータスペースに容易にアクセスできるアプリケーションや、IRSを含むサービスを提供し、製造業のお客様のEnd to Endのサプライチェーン構築に貢献いたします。
データスペースへの対応やSAP Business Networkに関して質問をお持ちである場合、また企業間コラボレーションにお悩みであれば、ぜひ私たちにご相談下さい。製造業のお客様のサプライチェーン課題を解決するべく、B-EN-Gがサポートいたします。
※この記事の前編はこちら