SAP ECC6.0サポート終了に伴う対応と事業の海外進出を目的に
SAP S/4HANA化を決断した住友重機械工業
日立製作所がフルリモートでの移行PJを成功に導く
SAP ECC6.0のサポート終了をきっかけにグローバル展開しやすいSAP S/4HANAへ
住友重機械工業は、一般産業機械から最先端の精密機械、さらに建設機械、船舶、環境・プラント機器までをカバーする総合機械メーカーだ。同社では、基幹システムとしてHANA Enterprise Cloud(以下HEC)上でSAP ECC6.0の会計システムとロジスティックシステムをシングルインスタンスの環境にて利用、運用していたが、2027年度に保守期限を迎えようとしていた。保守期限が迫ることから、基幹システムの更改を検討したが、同時に真のグローバル経営を見据えて決算期を12月に変更する計画や、事業のグローバル展開といった計画もあり、保守期限切れの解消だけでなく、これらを実現、サポートできる基幹システムへの刷新が求められていた。
そこで新たな基幹システムに選ばれたのは、SAP S/4HANAだ。SAP S/4HANAを選定した理由は、基幹システムとして多くの組織に展開でき、安定的に利用できる点、さらに海外展開を見据え、グローバル共通で基幹システムとして活用できる点などが大きいと指宿氏はいう。またSAP S/4HANAの持つ最新機能を活用することで、DX等をはじめとする、増加していくビジネスニーズに対応可能であることも、選定のポイントだった。
日立製作所が選ばれたのは実績と「プロジェクトのドライブ能力」
導入ベンダーとして採用されたのは、日立製作所だ。選定の理由には、過去に日立製作所と進めたプロジェクトに対する、高い評価が関係している。まず今回のSAP S/4HANAへのコンバージョンプロジェクトは、後続に控えるシステム展開等の計画により、トラブル等での遅延が許されておらず、計画通りでの移行が求められていた。さらに、新規システムの導入ではなく、バージョンアップ/コンバージョンプロジェクトであるため、システムを利用しているユーザに対して、システムが大きく変更されたというイメージを与えることも許されない。こうした背景から、ベンダー選定時に真っ先に思い出されたのが、以前行われた日立製作所とのプロジェクトだった。
2015年に行われたこのプロジェクトは、会計領域対してSAP ECC6.0を導入するもので、ベンダーとしてプロジェクトに携わったのが日立製作所であり、運用保守ベンダーの1社でもあった。
これらのプロジェクトやサポートについて指宿氏は「日立製作所はプロジェクトの管理能力が高く、プロジェクトをしっかりとドライブしてくれる」と評価。加えて日立製作所の作成するドキュメント類、すなわち成果物が明確に定義されており、高い品質の成果物を提供してくれると高く評価していた。
その他にも、日立製作所の持つSAP S/4HANA移行プロジェクトの豊富な実績とコンバージョンに対する技術的な知見、SAP社とのリレーションシップ、プロジェクトに関わるステークホルダーを束ねるコミュニケーション力、SAPシステム導入プロジェクトにおけるマネージメント力とプロジェクト推進力、さらにプロジェクトに携わるメンバーの人柄についても、大きな評価を得ていたのである。
さまざまな困難を乗り越え成し遂げたSAP S/4HANA化PJ
SAP ECC6.0からSAP S/4HANAへのコンバージョンに伴い、アーキテクチャが変更される不安から、プロジェクトは慎重に進められた。2018年10月から2019年3月まで、入念なアセスメントを行うとともに、2019年後半から2020年前半にかけてPoCを実施。加えて業務影響の調査やユーザ部門との調整などを実施し、さらに海外展開時の影響を最小限に留めるための検討も行った。
こうして2021年にキックオフが行われた同プロジェクトは、2023年5月にカットオーバを迎えている。一方でこの期間というのは、新型コロナウイルスの影響により、日本のみならず世界中が混乱していた時期。タイミング悪く、プロジェクトはこの困難な期間に実施されたのである。
新型コロナウイルスの影響から、プロジェクト作業や管理を含めてすべてリモートで行われた。コミュニケーション不足が懸念されるリモートでの作業は一見困難に思えるが、ここで日立製作所に期待していた「プロジェクト推進力」が発揮された。これについて風間氏は「海外を含め100人規模のプロジェクトでしたが、フルリモートでプロジェクトを完遂できました。日立製作所がメンバー全員と意思疎通を取ってくれたことで、円滑に進められた」と語る。
コミュニケーションを意図的に「過多」にして進めたプロジェクトは、日立製作所が作成したドキュメントも大いに役立った。プロジェクトでは、コミュニケーション不足によるトラブル発生を危惧し、週次定例を繰り返したのだが、日立製作所はこうしたタイミングでのドキュメントをきっちりと揃えたのである。これによりメンバー間の齟齬をなくし、トラブルを未然に防ぐことに成功した。中村氏は「日立製作所に期待していたポイントが、すべてプロジェクトに活かされたと考えています」と感謝を語っている。
一方でプロジェクトにはいくつかの困難もあった。具体的には、以下のような課題がプロジェクト前とプロジェクト中に発生したが、各種課題に対して、ステークホルダー間で検討を行ない、最適な対策を行いプロジェクトを推進させた。
さらにプロジェクトに関係する企業がグローバルにまたがっていたことも、本プロジェクトにおける困難のひとつであった。例えば日本には住友重機械工業、日立製作所が、そしてSAP社は日本、ドイツとインドといった具合である。日立製作所によるプロジェクトドライブは円滑であったが、海外メンバーとのやり取りにおいては齟齬もあり、この調整は困難であったが乗り切ることができたと風間氏はいう。
SAP S/4HANAを活用したデータ活用やデータドリブン経営にも期待
プロジェクトが成功し、既にSAP S/4HANAでの業務を進めている住友重機械工業。影響範囲は会計領域が国内33社、ロジスティクス1工場、そして海外だが、ストレートコンバージョンを実施したため、業務変化は最小限に留まり、大きなトラブルは発生しなかったという。むしろ想定していたよりもトラブルは無く、スケジュール通りにシステムを稼働させることができた。
SAP S/4HANAに移行したことにより、、海外展開の基盤が完成したこと、そして2027年に迫っていた保守期限に伴う不安が解消されたことにより、新たな試みを検討する余裕ができたと風間氏は語る。今後SAP S/4HANAの活用という点では、SAPに格納されているデータとAIを組み合わせたデータの利活用も視野に入れており、運用支援にも携わっている日立製作所からの提案にも、期待を寄せている。
住友重機械工業は、データドリブン経営やDXといった新しい取り組みに挑戦できる新たな経営基盤、SAP S/4HANAを手に入れた。今後は日立製作所とともに、新たな変革フェーズに進むはずだ。
導入企業
住友重機械工業株式会社
設立:1934年11月1日
資本金:308億7,165万円(2022年12月31日現在)
従業員数:連結:25,211人(2022年12月31日現在)
年間売上高:連結:854,093百万円(2022年度)