グループ115社・17万人が利用する基幹システムを
一斉にS/4HANA化する巨大プロジェクトを成功させたNTT
トレジャリーマネジメントの標準化も実現
グループ115社を一斉にS/4HANA化グループ共通IT導入プロジェクト
NTTはグループ各社の基幹システムを、115社同時にS/4HANAへ刷新する 巨大プロジェクトに挑み、2023年これを成功させた。このプロジェクトは、これまで業務に合わせて作り込んできたシステムから脱却し、データの標準化と、AribaやServiceNowといったパッケージ・SaaSを最大限活用することを志向したもので、その中心となるのが、S/4HANAだ。利用者は約17万人と影響範囲は広く、国内最大規模の単なるシステムリプレスではない、デジタルトランスフォーメーション案件といっても過言ではないだろう。
「グループ共通IT導入プロジェクト」は、NTTグループの2018年中期経営計画より構想がスタートし、そのスコープは主に、財務・調達・決裁 ・ビリングの4領域だ。この4領域はこれまでも、システムの共用は一定程度実現されていたが、情報共有や活用といった点においては不十分だった。情報、すなわちデータ活用には高度な標準化が必要だ。そこで各社の事業特性による違いが少なく、むしろ統合することで効果も享受できる、バックオフィスから変革を開始したのだ。
成功のポイントは「変革」を丁寧に従業員へ浸透させること
本プロジェクトは構想から4年6ヶ月余り で完了し、稼働後も大きなトラブル無く成功を収めた。プロジェクト全体の責任者である駒沢氏は「NTTだから成功できたのでは?」という質問を多くもらうというが、そうではないと語る。大規模なプロジェクトであるため、さまざまな成功のポイントがあるのだが、今回はその中からいくつかを紹介する。
まず「変革の浸透」だ。本プロジェクトは115社・17万人と広範囲に影響するため、まず「変革」の意味を全従業員に浸透させる必要があった。そこでグループ各社のCDO自らが従業員に対して変革を浸透させるべく、ビデオメッセージなどで「社員ひとりひとりがこの変革を我が事として捉えて前向きに取り組む」ということを伝え届けたのである。
次に新システム稼働に向けた、全従業員の心構えを含めた事前準備だ。リリース後、多少のトラブルはあったものの、規模からすればごく僅かであったと駒沢氏はいう。これにはリリース後の混乱を減らせるよう、予め施策を実施していたからだ。その施策とは、実際の利用者であるNTTグループ各社の従業員が、自ら問題を解決できる環境作りにある。
まずグループ各社に、4領域それぞれの新たな業務プロセスを担う「リーダー」を設定。その下に、不明点を尋ねてもらうための先生役「キーユーザ」を設け、その他の利用者を「エンドユーザ」と、3層に分けた。エンドユーザは不明点をキーユーザに問い合わせする。発生した問題などはキーユーザ、リーダーが集約し、解決策を講ずる。こうした取り組みにより、システム導入側への問い合わせを減らすことに成功するとともに、システムの定着や成熟を加速できたのである。
この施策の成功は、個々の従業員に「変革」という意識が根付いていたからに他ならない。駒沢氏がこれについて「トランスフォーメーションの成功は、IQ、ここでは技術力が20%、EQすなわち感情が80%である」と振り返えるように、感情や情熱を持って従業員の変革に取り組んだからこその成功なのである。
プロジェクト中、繰り返し浸透させた「ルール・組織・文化」を加えたEA
これまでの施策がEQとすれば、IQとなる施策も重要なポイントだ。それが本プロジェクトの要ともいえるEA(エンタープライズアーキテクチャ)である。
EAは業務・データ・システム・テクノロジの4つの要素で構成されるが、NTTではこれにDXで特に重要と考えられる「ルール・組織・文化」を加えた。
例えばEAの4要素は、今回のプロジェクトでも採用されたFit to Standardや、データドリブン経営などで達成できる一方、これだけでは実務で活かすことは難しい。なぜなら新たなシステムの活用には、これまでのルールや組織、文化を変える必要があるからだ。このEAを、財務・調達・決裁・ビリングの4領域において浸透させることで、各領域の横展開も容易に実現できる。例えばデータ部分だけを見ても、各領域のどのデータをどう連携させ、どう活用できるかといった議論も、キーマンが明確であるため実施しやすいからだ。
EAの構築はまず業務ありきという考えから、プロジェクト開始前に、EAのドキュメント化を実施。利用者となる各事業会社が自分ごととなるよう、事業会社と一緒になって策定された。そしてプロジェクト期間中も、EAで定めたポリシーやルール、考え方が守られているか確認するため、150回ものミーティングを行い、浸透を続けた。もちろんこの考えは、先に述べた施策の根幹にもなっているのである。
こうした取り組みを知ると「大規模プロジェクトではあるが、どのような企業でも勉強さえすれば問題なく進められる」と駒沢氏が語るのもうなずける。
デロイト トーマツが実現したトレジャリーマネジメント標準化
本プロジェクトにおいて、S/4HANAを活用した国内最大スケールともいえる資金管理も導入されたが、これを手掛けたのはデロイト トーマツだ。デロイト トーマツの選定を行ったのはNTTコムウェアであるとしながらも、駒沢氏は選定理由について次のように話す。
まずFit to Standardを目指す今回のプロジェクトでは、「スタンダード」の部分、すなわちグローバル標準を知る必要があった。そしてS/4HANA導入プロジェクトであることから、当然導入実績を持つことが望ましい。こうした条件から、グローバルでのS/4HANA導入実績を多数持つ、デロイト トーマツが選ばれたのである。
デロイト トーマツは本プロジェクトの財務領域のうち主に資金管理部分を担当。現預金・資金繰り管理では、銀行口座管理、現預金や資金繰り管理といった、これまで複数のシステムかつグループ各社に分散して管理されていたデータをSAP上に集約。また、SAPインハウスキャッシュの活用による口座間の貸借残高の管理を実現。これらの対応によりSAPシステム上での資金の見える化を実現した。
さらに国内では例を見ない、トレジャリーマネジメントの標準化も達成。これにより資金の集中管理を実現したほか、金利リスクへの対応や、グループ各社はグループファイナンスによる資金調達管理を実現。また、グループ各社の余剰資金の運用管理、金融機関からの借入やコマーシャルペーパーの発行等による資金調達管理なども、SAP標準機能で実現している。
現在、資金領域では国内のリソース不足が問題となっているが、グローバルに多くの人材を抱えるデロイト トーマツが、国内外のメンバーをアサインしたことで、こうした心配はなかった。これは同時に、デロイト トーマツの持つグローバルの知見を、プロジェクトに活かすことにも繋がっている。
稼働後は問い合わせもほぼなく、懸念されていた最初の月次決算も、順調に完了。竹内氏は「これまで経験したことがないほど、順調な滑り出し」と驚く。その要因として、プロジェクトにおいて強力なガバナンスが保たれ、Fit to Standardの遵守されていた点と考える。一方でNTTは、ガバナンスを保つことはもちろん、先に述べたように、従業員に変革を浸透させていたため、成功できたと竹内氏は振り返っている。
これでようやく変革の土台が完成したと語る駒沢氏。ここまでは中央集権体制で進めてきた変革だが、今後は完成した基盤を活用した、グループ各社の変革フェーズに入る。そして今後3年を目標に、すべてのステークホルダーに対し、新たなバリューを提供するというから驚きだ。竹内氏も「まだSAPの機能をすべて活用していない、今後も更なる変革に向けてサポートしていきたい」と展望を語るように、NTTの変革は、まさにこれからが本番なのだ。
導入企業
日本電信電話株式会社
設立:1985年4月1日
日本電信電話株式会社法(1984年12月25日 法律第85号)に基づく
資本金:9,380億円(2023年3月31日現在)
従業員数:338,651名(連結ベース2023年3月31日現在)