Fit to Standardの徹底でデジタルトランスフォーメーションを加速
SAP S/4HANAの最新機能を有効活用する
日立製作所の財務会計システム更改プロジェクト
多くのアドオンやデータの散在など問題が山積
日立製作所では、2000年頃よりSAPシステムを導入、ECC6.0はグループ全体、グローバルで640拠点に展開し利用していた。ECC6.0は国内・海外それぞれのシステム環境としていたが、日立製作所や子会社独自の業務プロセスに対応するため、多くのアドオンが存在していた。これはECC6.0を導入する際に、いち早く導入することを優先し、As-Is要件への対応を行ってきた結果だという。
10年以上利用した結果、さまざまな問題が顕在化してきた。例えば、データ管理の問題だ。SAP以外にも会計の周辺システムがあり、多くのシステムにデータが散在してしまったため集計が困難で、監査データの閲覧にも影響があったという。また、データの属性や粒度にも問題があった。売掛および買掛受払明細が複数のシステムに分散していたため、手作業による対応が必要だったのだ。そして問題は保守にも及んだ。As-Isプロセス前提で、多くのアドオンやレポートを作り込んだ結果、開発・保守コストが増大。システムを分割したことで運用体制も煩雑になり、コスト増につながっていたという。
日立製作所では兼ねてよりLumadaのDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の一つとして経営の見える化を進めている。今回これらの問題の解消と、財務データをデータレイクへ集約し利活用させることにより、更なる「経営情報DX」の高度化をめざしたのである。
3本の柱を中心に進められた日立製作所のDXプロジェクト
プロジェクトは「基本業務プロセスの簡素化と統合」「データレイクの整備」「データガバナンスの整備」の3つの柱に沿って進められたという。
「基本業務プロセスの簡素化と統合」とは、すなわち業務共通化によりE2E(エンドツーエンド)のプロセスを一つのシステムに統合することである。これにより、業務負荷の低減だけでなく、システム開発や保守といったコスト削減が期待できる。
2つ目の「データレイクの整備」は、データレイクによりこれまで事業単位や子会社単位に分かれていた、営業や調達、財務や人財といった経営に関する共通データを一元化し、業務効率を向上させるのが狙いだ。
そして両者を実現させるために大切なのが3つ目の「データガバナンスの整備」である。渡邉氏は「先の2つの柱を実現するためには、基盤となるルールが重要となります。今回、その基盤を作るためにデータガバナンスやコード体系の整備を確実に行うことを最優先しました」とその重要性を強調した。
これらを実現するため、本プロジェクトで採用されたのが、SAP S/4HANAとSAP Fioriだ。両者の選定にはどのような理由があったのだろうか。まずSAP S/4HANAだが、こちらは日立製作所が会計システムにSAPを採用し続けていたこと、そしてエンドユーザーへの導入実績も多く、構築や運用のノウハウがあったからだという。さらに八森氏は「業務を標準化するという方針の下、カラム型インメモリーDBなどシステムの特徴を見極め、SAP S/4HANAに搭載される新しい機能を有効活用したいと考えた」とも語っている。
そしてSAP Fioriについても、既存のアドオンを排除するとともに、SAP S/4HANAをFit to Standardで使う方針であったため、UIを全面的にSAP Fioriで構築することにした。
大規模プロジェクトを短期間かつ計画通りに完了できた理由とは
このプロジェクトは基幹システム更改と、分かれていたシステムの統合、業務標準化など、広範囲かつ複雑なプロジェクトだ。さらに影響範囲は広大で、グループ会社を含む150社/ユーザー3万人という規模である。一方でプロジェクト期間は2年3か月、準備を含めても約3年という大変短いものであったという。にもかかわらず、本プロジェクトはオンスケジュールで完了できたというから驚きだ。
これにはどのような成功の秘訣があったのだろうか。渡邉氏は、「過去の経験を生かし、標準機能を前提としプロセスを簡素化したこと、システムを統合したこと、新技術を活用したこと、そして部門横断でプロジェクトを推進したことだ」と語った。たしかにプロジェクトは、進行するに従って要件が増えたり、当初の方針からずれたりすることで、プロジェクト期間の延長や中途半端なシステムが出来上がるという話もしばしば耳にする。そのような事態を招かないためにプロジェクトの取り組みがあった。八森氏は、「プロジェクトの財務メンバーがSAP S/4HANA標準プロセスをよく理解しており、既存プロセスからの改善方式を適切に提示し、業務面を強くリード頂いた事が大きかった」と語る。またプロジェクトは、準備段階から、リーダー・メンバー・子会社を含むユーザーに対して方針の共有、説明会を重ねたのである。これは方針の共有以外にも利点がある。DXは実際に利用するユーザーの協力無くして、成功はありえないからだ。北嶋氏は「SAP S/4HANAを活用して『能動的にデータを使う』という意識改革につながった」と語る。
さらに本番稼働までの1年を掛け、ユーザートレーニングやリハーサルも入念に実施。これも当初からスケジュールに組み込んで予定していたという。
こうした入念な準備は、ECC6.0を導入・展開した際のノウハウが生かせたという。説明会が新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりオンラインに切り替わった際にも、資料にすべての説明文を加えるなど、理解しやすいようにする工夫を行い乗り切った。
利便性が向上しユーザーにも好評、プロジェクトの成果は大きい
新システムは2021年4月から稼働し、新システムでの決算も問題なく完了している。ただし、すべてが順調に安定稼働できたわけでも無い。稼働直後はSAP S/4HANAのインメモリーDBシステムの理解不足から大量のメモリーリソースを消費し、ピークを乗り越えられない事態も発生した。日立製作所の社内ナレッジおよびSAP社サポートで一斉に見直しを実施したことにより、四半期決算の2021年7月からは安定稼働している。
気になる使い勝手だが、SAP S/4HANAとSAP Fioriの組み合わせはユーザーにも好評だという。例えばKPIなどが視覚的に見られるUIなどだ。また債権と債務管理を統合した結果、残高明細などを一度にすべて確認できるようになった。そのほか円滑な承認プロセスなど、業務効率の大幅な向上を実感しているという。
データレイクの活用も進んでいる。例えば集約した会計データにより、経営分析や監査の効率化を実現したり、他のシステムからデータを収集して横断的な分析を行ったりと、さまざまな活用が推進されているという。日立製作所において、全社にまたがる大きなデータレイクの構築は初めての試みだったが、すでに無くてはならない存在になっているようだ。八森氏は「SAPや他のシステムから『正しく情報を集めながら分析・活用する』ということを、現在進行形で進めている」と語る。
業務標準化による変化も大きい。無駄なレポートやアドオンの削除、個別要件を排除したことで、運用保守は飛躍的に容易に行えるようになった。もちろん運用体制の一元化も実現。これらにより運用コストの削減や、利便性は大きく向上した。
自社プロジェクトでさらに高めたノウハウをお客さまのシステムへ
日立製作所はこれまでに顧客向けにも400社以上のSAPシステムの導入や運用を行ってきたが、今回のプロジェクトによって、新たな付加価値の可能性を見いだせたという。これについて北嶋氏は「今回のプロジェクトでは、自社だからこそ可能なチャレンジも多くありました。成功したこと、うまくいかなかったこと、ITや業務のメンバーの知見、すべては、お客さまが変化に耐えうるシステムを導入するために生かせるノウハウとなっています」と語ってくれた。なお、今回のプロジェクトで適用したワークフロー機能は、「SAP Fiori ワークフローソリューション」として、お客さまへの提供を開始している。
例えばECC6.0のサポート終了に伴う更改の必要に迫られていながらも、付加価値がないといった理由で、あと一歩を踏み出せない場合もあるだろう。
日立製作所であればこうした企業に対して、業務改善やデータレイク導入といった、いわゆるDXを加えた更改プロジェクトを提案し、ともにプロジェクトを進めてくれるはずだ。ぜひ「最初の一歩」を日立製作所と一緒に歩み出してほしい。
導入企業・パートナー企業
株式会社 日立製作所
設立:1920年2月1日(創業1910年)
売上高:連結 10,264,602百万円(2022年3月期)
事業内容:IT、OT(Operation Technology)およびプロダクトを組み合わせた社会イノベーション事業を提供