DCPA+スモールスタート&クイックウィンで実現
BlackLine導入による会計財務部門のデジタル改革
絶えざる革新の中で進められたBlackLineでの会計財務部門改革
豊かな共生世界の実現を使命とする花王グループは、2025年度までの5か年を対象とした「花王グループ中期経営計画K25(Kao Group Mid-term Plan 2025)」を策定し、新たな成長路線を打ち出した。この中期経営計画実現のためのキーワードはDXだ。
花王のDX推進という観点での取り組みは、これまでも『絶えざる革新』として続けられており、会計財務部門ではERPの導入や、IFRS適用などを進めてきた。一方で、決算業務や月末月初の作業など、改善が不十分といえる分野もあったという。例えば決算作業や請求業務では、書類を確認しサインをするといった、いわゆるサイン業務という手作業が残っており、会計財務部門では常々課題意識を持っていたという。
そして2020年度、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、花王のみならず、多くの企業が働き方を変化せざるを得ない事態に直面した。花王でも全社を挙げたテレワーク推進が行われ、会計財務部門でもDXによる業務改善は急務となったのだ。
そこで花王が導入を決めたのが、クラウド型決算プラットフォーム「BlackLine」である。導入はテレワーク化を早く進めるためにも、2020年度、21年度上期でスピーディーに行う必要があった。BlackLineはすでに欧州・米州の海外部門で導入実績があり、情報システム部門に大きな負担をかけることなく、会計財務部門を中心にスモールスタートし、後から拡張していけると考え、導入を決めたという。
最終的に導入されたBlackLineのパッケージは4つ。決算タスクの進捗管理を行う「タスク管理」、月末残高の照合を行う「勘定照合」、データ突合と消込作業を効率化する「マッチング」、決められた条件下での仕訳を自動化する「自動仕訳」であり、これはBlackLineのほぼフルパッケージに相当する。
スモールスタート&クイックウィンを実現したDCPAでのBlackLine導入
プロジェクトはBlackLineの導入による、テレワーク環境での「可視化・統制強化」「標準化・自動化」が目指された。さらに急務であることから「スモールスタート&クイックウィン」での導入を目指したという。
スケジュールは2020年10月から12月までの3カ月をフェーズ1とし、ツール利用者を本社・1工場・1子会社の30人に絞り、BlackLineの「タスク管理」と「勘定照合」のモジュールを導入。
プロジェクトは感染拡大の最中であり、ブラックラインのコンサルタントによるアドバイスやミーティングは、全てオンラインで行われた。オンラインでしかやり取りできない点に当初不安もあったというが、録画機能を活用したことで、不参加者が後から確認できたり、改めて内容を復習したりと、結果的にはかえって良かったという。
2021年1月からのフェーズ2では、「マッチング」と「仕訳入力」のモジュールを導入。これと同時に、フェーズ1を経験した6名が事務局となり、工場や子会社への横展開を実施した。2021年3月初旬にキックオフミーティングを行い、18の工場・子会社の50人に対して導入サポートを行った。
事務局はマニュアルの作成や、フェーズ1でのミーティング録画を活用するなどの工夫をしながら横展開を実施。それぞれの担当者の前向きな取り組みもあり、2か月後となる5月には、タスク管理と勘定照合の本番稼働を実現。その後マッチングと仕訳入力についても展開を行ったという。
導入も短期間だが、展開と本番稼働までも短期間で実現できたのは、全員がこのプロジェクトを自分事として捉えた結果だという。またプロジェクトの進め方について、照沼氏が「プロジェクトはいわゆるPDCAではなくDCAPで進めました。失敗を恐れずにまずやって見る、動かしてみるという方法です」と振り返るように、「Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)→Plan(計画)」のサイクルで進められたという。「スモールスタート&クイックウィン」が成功したのは、花王の会計財務部門にDCPAの考えが根付いていたことも、大きなポイントといえるだろう。
経理の実務担当者からみたBlackLine導入による多くの効果
BlackLineの導入により2021年上期に行われた決算業務は、手作業やサイン業務はほぼ無くなり、リモートワークでの決算を実現。またタスク管理による標準化や、マッチング・仕訳における業務の効率化にも成功したという。
では経理の実務において、具体的にどのような効果があったのだろうか。実務担当者である照沼氏に尋ねたところ、さまざまな導入効果を話してくれた。
まず前払い処理の自動化による効果だ。これまで四半期ごとに手作業で振替を行っていたが、数が多く担当者も多岐にわたっていた。その結果、漏れや間違いを無くすべくチェックを増やしても、無くせなかった。また管理側でも、漏れや間違いをチェックするため、負担が大きかったという。現在は自動処理によりこうした負担は無くなり、効率化と正確性を両立できたのである。
こうした作業の効率化や機能面以外のメリットも生まれたという。処理が自動で行えるため、これまで四半期ごとにしか行えなかった振替タイミングの月次化を実現。これにより作業負担を増やすことなく、費用の平準化を実現できたのだ。
また、BlackLineのプラットフォームとしての価値も発揮し始めているという。これまでバラバラに保管されていたデータを一元管理し始め、1年以上が経過し、データも揃ってきた。その結果、現在ではわからないことがあれば、BlackLineを見れば解決できるという環境になったというのだ。
さらにBlackLineの導入で時間の使い方が変わったといい、特に月末月初は大きく変わったという。月末月初には、月末に当月の着地の確認を行い、月初は閉まった損益に対して課題やどうすべきかを、担当事業にフィードバックさせるという業務がある。このフィードバックは、情報の鮮度を保つため、いかに素早く行うかが重要だというが、これまでは月末月初に仕訳作業があり、時間を割くことが難しかったこともあるという。導入後は自動仕訳により、単純作業から開放され、「考える業務」に注力できるようになったのだ。
経理業務のDXはBlackLineで解決、導入のポイントはDCPAにあり
BlackLineの導入を成功裏に終え、現在は監査業務への展開を考えているという照沼氏。今後BlackLineの導入を検討している企業に対して次のように語ってくれた。「先に述べたように、導入はDCPAで行うのが良いと思います。もともと検討していた課題もありましたが、実際にやってみなくては分からないことも多かった。だからこそ、まずやってみるというのがポイントです」。
決算業務や経理業務に、手作業やサイン業務が残っていることで、テレワークの実現や、作業効率化に悩んでいる企業はまだ多いだろう。この花王のBlackLine導入プロジェクトと、DCPAによる「スモールスタート&クイックウィン」の実現は、大きなヒントとなるはずだ。
※本記事は8 月24 日にブラックライン株式会社が開催しましたイベントのレポートになります
導入企業
花王株式会社
創業:1887年6月(明治20年)
設立:1940年5月(昭和15年)
資本金:854億円
従業員数:8,508人(連結対象会社合計 33,507人) *2021年12月31日現在