日本最大の発電事業を支える経営ダッシュボードを4カ月で構築
“情報の民主化”と事業ポートフォリオの全体把握を実現
報告書の作成に多大な時間と労力が必要に
JERAは、日本の電気の約3割を作り出している国内最大の発電会社です。「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」をミッションとし、「再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供することにより、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する」ことをビジョンに、「2050年CO2排出実質ゼロ」など諸問題の解決に取り組んでいます。
2019年4月に東京電力と中部電力の燃料事業、海外発電事業、火力発電事業などの承継を完了し、燃料の上流・調達から発電、電力・ガスの卸販売に至る一連のバリューチェーンを確立。世界有数のエネルギー企業として始動した同社ですが、残された課題がデータの統合でした。それまで同社では、経営管理の指標となる各種データをExcelベースで作成し、事業体単位あるいは担当者ごとに管理していたため、サイロ化・属人化が進んでいました。
それゆえ、報告書は各部署に声をかけて必要なデータを集め、切り貼りしながら作成しなければならず、多大な時間と労力を要していたといいます。事業管理統括部 事業開発戦略部 事業戦略ユニットの桑名潤氏は「火力発電、ガス販売、再生可能エネルギーなど事業体が複数ある当社では、全体収益を迅速に把握できなければスピーディな意思決定は不可能です。そこで、事業のポートフォリオ全体の状況把握と情報の透明化を目的に、経営ダッシュボードを開発することにしました」と語ります。
事業統合後、新たなITデジタル戦略として「データドリブンカンパニーへと変革する」を掲げていた同社では、クラウドベースの統合プラットフォームをAzure上で整備し、SAP ERPを中心とした基幹システムの移行や、AI・IoTを活用したデジタル化に取り組んでいました。事業管理統括部 事業開発戦略部 事業戦略ユニットの丹野剛氏は「こうした一連の流れの中で、データを活用した分析や意思決定を進めるため、情報を一元管理するプロジェクトが立ち上がりました」と当時を振り返ります。
SAP ERPやSAP BWの導入・構築において豊富な経験と高い技術力を持つBeeXを選定
JERAではデータ管理のための経営ダッシュボードの導入を検討、複数のデータ分析(BI)ツールの中からSAP Analytics Cloudを採用しました。当時(2019年)の国内実績は少なかったのですが、同社が基幹システムに採用しているSAP ERPやSAP BWのアーキテクチャとの親和性を考慮し決定したといいます。
一方、導入パートナーにはBeeXを選定。その決め手は豊富な経験とそれに裏付けられた高い技術力にありました。 ICT戦略部 データインテリジェンスユニットの明渡健史氏は「SAP ERPやSAP BWの導入・構築において数多くの実績があり、インフラやSAPのベーシス領域にも強いことを評価しました。
BIの領域ばかりでなく、予算・計画管理(Planning)や、予測・影響分析(Predictive)への拡張を見据えたとき、BeeXは将来にわたって長くお付き合いできるパートナーだと判断したのです」と語ります。
実際の導入作業ですが、まず業務要件の整理や必要なデータの洗い出しなどを行い、2020年1月からダッシュボード構築に向けた要件定義を開始。SAP Analytics Cloud、DWHのSAP BW on HANA、データ連携基盤のSAP BO Data Servicesの設計・開発を経て、2020年4月に先行リリースしました。
その後、ユーザーの要望を反映した修正対応を行い、2020年8月より本稼働をスタートさせています。
「事業体ごとに、ダッシュボードに表示したい情報やその粒度が異なるため、指標の統一に苦労しました。設立して間もない会社ということもあり、各事業体とコミュニケーションを取りつつ、必要なデータを洗い出し、集めていくことも大変でしたね」(桑名氏)「IT面ではマスターデータの体系化、データマネジメントを考慮したドキュメントの作成、SAP BW on HANAにおけるDBレイヤーとABAPレイヤーのモデリングの切り分けなどを重視しながら進めました。運用開始後も、データアップロード手順やデータ入力フォームの標準化などに取り組みながら改善を続けています」(明渡氏)
全社員が利用できる“情報の民主化”により、データに基づくコミュニケーションが実現
このたびJERAが構築した経営ダッシュボードは、利用者の目線に合わせて階層型構造となっています。第1階層では事業開発部門全体で管理すべき経営指標として予実管理とポートフォリオ分析を表示し、第2階層では国内火力、国内ガス、再エネなど事業セグメント別の予実管理、ポートフォリオ分析、パイプラインリストを表示。第3階層では開発、建設、運用などプロジェクトごとにビジネスモデルの実態に応じたボード構成をとっています。
このダッシュボードではデータソースのExcelファイルをSFTPで転送し、SAP BO Data Services経由でSAP BW on HANAに自動アップロード。その後、クエリーを介してSAP Analytics Cloudによるダッシュボード上に表示されます。現在は事業開発部門に所属するメンバー約250名が利用中で、事業開発部門の経営層も閲覧しているといいます。
「今は四半期ごとの報告会での活用が中心です。利用して感じた主なメリットですが、事業開発部門の個々のプロジェクトが当社全体の利益にどれだけ貢献しているかがひとめでわかるようになりました。また、SAP BW on HANA上にDBとしてデータを蓄積することが可能になり、情報をいつでも閲覧したり加工したりできるようになったことも大きいですね」(桑名氏)
また、ダッシュボードは各事業部のユーザーからも好評を博しています。
「パイプラインによって案件管理が楽になり、これまで四半期に1回実施していた集約作業もダッシュボード上ですべて自動化されました。今後、より多くの人が利便性を実感できるようにユーザーの意見を取り込みながら進化させていきます」(丹野氏)
さらに、経営層から実務者層まで全社員が同じデータを見ながら仕事ができる環境を構築されたことで、“情報の民主化”、データに基づくコミュニケーションが実現したことも大きな成果だったといいます。明渡氏は「これまで見えていなかったデータが表に引っ張り出され、各種指標が経営やビジネスに必要であることを全担当者が意識できるようになりました。結果として、データドリブンカンパニーへとつながる第一歩となったのではないでしょうか」とその意義を強調します。
SAP Analytics Cloudの活用を予算・計画や予測の領域まで拡張
今後、JERAではダッシュボードの機能を強化したり、できることを増やしたりしながら、経営の意思決定の迅速化や業務のさらなる効率化を支援していく考えです。また、次のステップとしては、SAP Analytics Cloudの活用を、予算・計画や予測の領域まで拡張。内部の管理系データや会計系データだけでなく、エネルギー資源に関する外部のデータも取り込み、複合的に活用しながら予測精度を高めたり、AIや機械学習を用いた予兆検知に活用したりしていく構想を描いています。
今回のプロジェクトにおけるBeeXの支援について、桑名氏は「どんな問題でも親身になって相談に乗り、速やかに解決策を提示いただき、非常に心強いパートナーだと思いました」と評価しています。また明渡氏も「技術力が高いことはもちろんのこと、ビジネス側の担当者ともダイレクトに会話ができ、適切な提案をいただくことができたことは大きく評価しています」と語ります。さらに丹野氏は今後について「分析の高度化に向けて、要求の難易度はさらに高まっていくと思いますが、最新技術のトレンドを踏まえて引き続きご助力ねがえればと思います」と期待を語ってくれました。
世界最大級の燃料取扱量を誇る企業体としてグローバルにビジネスを展開していくJERA。SAP Analytics Cloudを用いたダッシュボードは、同社の経営管理の強化に貢献していくことでしょう。
※ SAPは、ドイツおよびその他の国々におけるSAP SEの登録商標です。
※ その他記載されている、会社名、製品名、ロゴなどは、各社の登録商標または商標です。
※ 記載されている企業名および担当者の情報は取材当時のものです。
導入企業
株式会社JERA
設立:2015年4月30日
資本金:1,000億円
従業員数:約5,000名(2022年3月時点)
事業内容:火力発電事業、再生可能エネルギー事業、ガス・LNG 事業、
各事業に関するエンジニアリング、コンサルティングなど