導入事例「東京電力ホールディングス株式会社」

東京電力ホールディングス株式会社
電力小売事業の競争力強化を見据え
新営業料金システムにSAP for Utilitiesを採用
2016年4月からの電力小売全面自由化を機に、東京電力株式会社[当時](以下、東京電力[当時])は、お客さま中心のビジネスモデルを指向し、新料金メニューの契約管理や料金計算などを一貫して支える小売新CIS(営業料金システム 愛称:BIRTH※ 以下「BIRTH」)を構築した。(現在は、東京電力グループにおける小売事業者として分社化された東京電力エナジーパートナー株式会社にて運用中)電力ビジネスとSAPシステムに精通した日立製作所の知見を活用し、国内初のSAP for Utilities本格導入となった大規模かつ高難度のプロジェクトを1年5カ月で完了。さらなるビジネス成長に向けた体制を整えた。
※BIRTH:Business Infrastructure for Retail growTH

電気事業の再編に向けて新営業料金システムを構築

草野 大介 氏

草野 大介 氏
東京電力ホールディングス
株式会社
経営企画ユニット
グループ事業管理室
カイゼン推進室 CIOオフィス
※肩書は取材当時のものです

東京電力グループの小売電気事業を担う東京電力エナジーパートナー(以下、東京電力EP)では、全国の法人向け、関東/関西/中部エリアの個人向けに電力を販売しており、契約数は現在約2,800万件と、国内で最大規模を誇る。

BIRTHの構築に至った背景には、法的側面とビジネス的側面の2つがあった。法的側面には、2020年4月までに実施することが定められた発電/送配電/小売の「法的分離」要件に対応し、新規参入を図る新電力事業者との中立性を確保するという要件があった。東京電力ホールディングス 経営企画ユニット グループ事業管理室 カイゼン推進室 CIOオフィス(肩書は取材当時)の草野大介氏は次のように語る。

「電気事業法の改正により、全国10社の一般電気事業者は経営面だけでなくシステム面でも発電/送配電/小売事業を2020年までに完全に分離し、独立性を確保しなければなりません。そこで、東京電力は他社に先駆けて2016年4月に分社化する方針を打ち出しました」

ビジネス面では、電力小売の全面自由化に伴う競争への対応だ。国内最大の契約者数を抱え、新規参入組から追われる立場にある同社が、他社への顧客流出を抑えて小売事業を安定的に維持するには、いっそうの競争力強化が不可欠となる。そのためには付加価値を高めるサービスが重要で、たとえばスマートメーターで計測した30分ごとの電力使用量に基づいて利用スタイルに合ったきめ細かな料金メニューの提供などが不可欠である。

「スマートメーターは、2021年度までには東京電力管内全域に設置される予定です。今後、新しい料金メニューやサービスを提供するためにも、システム面の強化は必須要件と考えました」(草野氏)

日立の提案を受けて公共機関向けSAPシステムを採用

東京電力[当時]はBIRTHの構築にあたり、導入スピードを重視してパッケージシステムの導入を決定。最終的に日立製作所が提案した「SAP for Utilities」をベースとするシステムを採用した。

SAP for Utilitiesは、お客さま管理、申込み受付、契約管理、検針値管理、料金計算、請求・支払管理など、電力の小売業務に必要な機能を網羅しており、世界各国の電力事業会社で採用されている。日本でも一部の機能が使われている実績はあったが、ERPとCRMの機能を連携するSAP for Utilitiesの大規模導入は同社が国内初のケースとなる。

「欧米で広く使われていても、日本の電力事業の業務にフィットするかには不安もありました。そのため決定前には、業務担当者と一緒にSAPジャパンを訪問して詳細なデモンストレーションを受けるとともに、欧州のSAP採用企業を複数訪問するなど、CISの機能が充実していることを確認しました」(草野氏)

日立製作所を導入パートナーに選んだ理由は、既存CIS構築の実績に加え、短期開発、要求仕様の変化に対する柔軟な対応が可能と考えたことにある。
「電気事業者の法的分離とともに、東京電力内での分社化やシステム分離の方針が2014年春に正式に決定し、2年弱というわずかな期間でのシステム構築が必要でした。プロジェクトの遂行には、法制度の変更に追従しながら短期間の開発に対応できるベンダーの存在が不可欠です。日立は、東京電力が1987年から利用してきた既存CISの開発も手掛けており、膨大な契約者数を有する当社の電力ビジネスへの理解があります。さらにSAP製品の豊富な導入実績に裏付けられた対応力に期待しました」(草野氏)

標準機能の活用で1年5カ月の短期構築を実現

新たに導入したBIRTHは、東京電力EPの小売電気事業の中核を担う基幹システムとして位置付けられる。電気の送配電を行う送配電事業者の託送業務システムなどとは、広域的運営推進機関のスイッチングシステムを介して接続。その他にもお客さま専用のWebサイト、東京電力ホールディングスの経理システム等ともシームレスに連携し、小売に関する業務がすべて完結する仕組みだ。

導入プロジェクトのキックオフは2014年7月。要件定義、ビジネス設計、開発の工程を経て、翌年12月にはシステムを立ち上げ、総合受け入れテストや事前リハーサルを実施。2016年1月から新料金メニューの先行受付を開始し、4月のサービスインに合わせて本稼動に移行。構築期間は実質1年5カ月と、CISプロジェクトとしてはかなりの短期間だ。

プロジェクトマネージャーを務めた草野氏が「BIRTHの導入は業務改革(BPR)の一環として捉えていたので、業務部門とシステム部門が縦割りで進めるのではなく、業務部門を中心に体制を作りました」と語るように、約20名のプロジェクトチームの7割を業務担当者で構成する形で進めた。SAPパッケージの標準機能を優先する方針を徹底し、アドオン開発は最小限に抑えたという。

「海外とは業務要件が異なる部分もあり、どうしても必要な部分のみアドオン対応しました。日立のSEにも、お客さまの申し込みを受けるカスタマーセンターの業務を直接見せて、アドオンの必要性について納得してもらいました。結果的にはパッケージに対して約70%のフィット率を維持しました」(草野氏)

本プロジェクト中には、法制度の整備が並行して行われていたため、新システムへの要件変更もたびたび発生した。しかし、日立が業務要件や工数などを吟味し、対応できること/できないことを明確に示したことで、プロジェクトマネージャーとして変更管理やスコープ管理も柔軟に対応できたという。

プロジェクトを成功に導くプロフェッショナル集団

東京電力[当時]と日立が一体となった開発体制も、短期構築に貢献している。日立は、電力会社アカウントとSAP専門の2つのチームの協働体制を取り、開発フェーズには約300名規模のSEが投入された。草野氏は次のように評価する。

「電力の小売事業、SAPシステムに精通するプロフェッショナルを揃えているITベンダーは日本でも限られています。日立からは優秀なPMに加え、メンバーについてもエース級の人材を惜しみなく投入していただきました。また、このような大きな組織をまとめるため、日立の営業担当の関わりも大きかったと思います。数百名単位のメンバーが大部屋方式で一体となって1つの目標に挑んだことが結果につながったと考えています」

さらに、日立だけでなくコンサルティングファームの有識者や、SAPのサポートプログラム(SAP MaxAttention)の協力も短納期かつ高品質なシステムの構築に貢献したと草野氏は振り返る。「SAPに詳しくない業務側のメンバーが、技術者と突っ込んだ会話をするのは容易ではありません。そんなとき、海外の電力事業にも知見のあるコンサルタントが間に入り、電力自由化のあるべき姿をSAPで実現するための方策を共に検討できたことで、会話がスムーズに進みました」

BIRTHをモデル化し外販も視野に

「SAPシステムでは、契約業務や課金業務が発生するさまざまな事業に対応できます。お客さまに魅力のあるサービスを今後も提供していきます」と草野氏が語るように、東京電力EPでは、2017年4月から自由化された家庭用都市ガス小売事業についても、BIRTHで対応している。

一方、今回構築したBIRTHのノウハウをモデル化し、他の事業者に外販することも構想中で、すでに本システムをカスタマイズして導入することが決定した事業者もあるという。

「この機会をチャンスとしてとらえ、日本の電力小売業務に最適化したBIRTHの外販により、東京電力グループの収益力強化に貢献したいと考えています」(草野氏)

これまでにないエネルギーの競争時代を迎え、東京電力グループは総合エネルギーサービス企業への進化に向け、さらなる挑戦を続けている。

図1:東京電力が導入した新しい小売新CIS「BIRTH」

図1:東京電力が導入した新しい小売新CIS「BIRTH」 ※クリックして拡大

会社概要

東京電力ホールディングス株式会社

設立:1951年5月1日
資本金:1兆4,009億円
事業概要:総合エネルギーサービス(燃料・火力発電事業の東京電力フュエル&パワー、一般送配電事業の東京電力パワーグリッド、小売電気事業の東京電力エナジーパートナーを中心に構成されるグループの持株会社)
www.tepco.co.jp

パートナー企業

株式会社日立製作所
株式会社日立製作所